大手牛丼チェーン「すき家」鳥取南吉方店で、提供された味噌汁の中に“ネズミの死骸”が混入していたとされる衝撃的な騒動。
同店への苦情とネズミ入りの味噌汁の画像は、今年の1月にGoogleマップ上に投稿され、SNS上で拡散されていた。それなりの大きさのネズミであったことから、「提供する店員が気づかないはずがない」と、生成AIで作られたフェイク画像ではないかという指摘も少なからず見られた。
しかし3月22日、すき家が同社HPでネズミ混入が事実であることを公表し、騒動はさらに大きくなっている。
異物混入に限らず、企業のリスクマネジメントにおいて、一般的には下記の2つが必要になる。
1. 問題が起きないようにするための事前対応
2. 問題が起きてしまった後の事後対応 このたび、すき家は両者において、致命的なミスを犯してしまったといえるだろう。
【写真を見る】フェイク画像にしか見えない…あまりに衝撃的な「ネズミ混入」写真(5枚)
■なぜ、すき家は事前確認を怠ったのか?
実は、ネズミが混入した店舗は、筆者の実家の近くの店舗で、すき家の発表の前日まで鳥取に帰省していた。さらに、筆者の実家や親族は飲食店を経営している。今回の件は、まさに他人事とは思えないような出来事だ。
なお、筆者自身は当該の店舗を訪問することができなかったが、親族がすき家の公表後に訪問している。店は通常営業しており、客も入っていたようだ。
異物混入に話を戻そう。すき家の発表によると「当該従業員が提供前に商品状態の目視確認を怠ったため、異物に気付かずに提供が行われました」とのことだが、この点が事前対応における最大の誤りだといえるだろう。
「こんなに大きなネズミに気づかないことがあるのか」「従業員教育が不十分なのではないか」といった意見も見られた。たしかに、正しい意見だ。ただ、同地域で実家が飲食店を営んでいた身からすると、こうしたことが起きてしまった要因も理解できなくはない。
異物混入が起きた店舗は、鳥取市内にはあるが、鳥取駅から徒歩で行くにはやや遠い。県道26号線沿いに位置し、ドライブスルーも設置されている。いわゆる都市型の店舗ではなく、地方型の車で訪れるような店舗だ。
こうした店舗では、顧客以上に従業員を確保することが難しい。実家の店でもそうだったのだが、学生や主婦の短期アルバイトは確保できるのだが、長期で勤めてくれる人材はなかなか確保できない。飲食店のステータスが低く、優秀な人材が定着しづらいし、優秀な人材は飲食店以外のところに行ってしまいがちだ。
大都市の店舗では外国人スタッフが多く働いているが、地方によっては留学生を除いて、外国人はさほど多くはない。また、外国人をはじめとする多様なスタッフを教育するノウハウが蓄積されづらい。
地方に限らないが、コロナの影響で外食産業から人材が離れてしまっている。コロナが収束した後も、経験がある人材が戻って来てくれるとは限らない。
今回のすき家のケースがどうであったのかは、公表されていないのでわからないのだが、筆者の実感としては、上記のようなことと無関係ではないように思える。
■公表が2カ月遅れたダメージは大きい
異物混入は、飲食ビジネスを行う事業者は、細心の注意を払って避けなければならないことだが、完全にゼロにすることは難しい。
異物混入は、大手外食チェーンほどニュースになるが、確率的には個人経営の店舗で起こる確率のほうが高いといえる。一般的に大手外食チェーンの衛生管理の基準のほうが厳しいのだが、店舗数が多ければ多いほど、異物混入が確認される件数は増えるし、確認された後でニュースになる確率も高い。
そうであればこそ、大手になればなるほど、異物混入を回避する「事前対応」だけでなく、異物混入が起きてしまった際の「事後対応」もしっかりと行う必要がある。
すき家はHP上で下記のようにコメントしている。
当該店舗については発生後すぐに一時閉店し、衛生検査の実施と、異物混入に繋がる可能性のある建物のクラックなどへの対策を講じるとともに、商品提供前の目視確認など、衛生管理に関して改めて従業員に対する厳格な教育を行いました。また、発生当日の段階で所管の保健所にも相談しています。なお、当該店舗は発生2日後に保健所のご担当者様に現地確認をいただいた上で営業を再開しました。
全国の店舗に対しても、異物混入を未然に防ぐために提供前の商品状態の目視確認を徹底するよう改めて指示を行いました。
これを見る限り、事後対応はしっかりとやっているように見える。
ただ、問題なのは報告のタイミングだ。
異物混入に関しては、1月21日に直接顧客から報告を受けており、上記のような対応を講じている。公表されたのが、3月22日、つまりは発生から2カ月後だ。その間、ネット上に画像がアップされ、SNS上で話題にもなっている。
いずれにしても、大きな騒動にはなったには違いないが、迅速に発表していれば、騒動はもっと小規模にとどまり、すき家側への批判もここまで大きくはならなかっただろう。
実際、2カ月間公表が遅れたことが、メディアで大きく取り上げられる結果となっている。
加えて言えば、異物混入を訴えた顧客に対して、十分な対応を行ったのかどうかについても、疑問が残るところだ。異物混入をネット上で報告する行為は好ましい行為とはいえないが、それを防ぐために、手厚く顧客対応を行うことも店舗側には求められる。
■異物混入を乗り越えた「3事例」
本件と引き合いにされる事例が、昨年5月に起きた、敷島製パンが生産する「Pasco(パスコ)」ブランドの食パン「超熟」に、クマネズミの一部が混入していた事件だ。
こちらも大きく報道されたが、敷島製パンは原因究明と対応を迅速かつ徹底的に行い、そのプロセスを随時公表した。それによって、一時的にブランドイメージは下がったかもしれないが、誠実な対応が功を奏し、事態は比較的早く収束した。
まだ事件から1年も経っていないが、売り上げの大幅な低下は見られなかったようだし、ブランドイメージは十分に回復しているように見える。
筆者自身、食パンは「超熟」を購入しているが、この事件によって購入を控えるようにはならなかったし、現在でも継続的に買い続けている。
10年以上前の話になるが、まるか食品のカップ焼きそば「ペヤングソースやきそば」に虫が混入していた際の対応も、“成功事例”として知られている。この時も、虫の死骸が商品に混入している画像がSNSに上げられて拡散された。
会社側は、問題発覚直後に、製造過程での異物混入を否定したり、投稿者に画像の削除を依頼したりしたが、これが裏目に出て批判が殺到する事態になった。
初動対応は誤ったが、その後に全工場での生産を停止させ、市場に流通していた商品4万6000個を自主回収し、徹底した原因究明と再発防止策を講じた。
一連の対策により、一時的に商品が売り場から消えることになったが、顧客から「早く販売を再開してほしい」という声が飛び交った。販売を再開した後は、異物混入発覚前よりも売り上げが増加するという結果となっている。
マクドナルドで2014年から2015年に相次いで起きた異物混入問題も、初動は誤ったが、その後に大きく挽回した好事例だ。
一連の異物混入や、ナゲットの期限切れ鶏肉使用問題が引き金になり、マクドナルド社の業績は一時的に大きく落ち込んだ。不祥事対応だけでなく、これを機に同社は大規模な経営改革を行い、店舗やメニュー、接客の改善を図った。
■ピンチをチャンスに変える3つの視点
こうした一連の取り組みが功を奏し、マクドナルド社は早期の業績回復を実現したのみならず、過去最高益を更新するまでの好業績を達成することに成功している。
こうしてみると「異物混入」というピンチをチャンスに変えた企業は、決して少なくはないことがわかるだろう。
異物混入を乗り越えることができた企業の共通点は何だろうか?
主に、以下の3点があげられる。
1. ファンがいる、愛される企業であること
2. 問題への対応が迅速で、徹底していること
3.(不都合なものも含めて)情報公開を迅速に行うこと
不祥事が起きた際に、多くの人に知られることなく、内々で処理してしまいたい――と考えるのは、通常のことだ。ただ、現在ではSNSで誰でも情報が発信でき、その情報がメディア報道以上に広がってしまうこともある時代だ。
提供している商品・サービスが一定の顧客から受容され、愛されているのであれば、不祥事が起きても擁護してくれるし、利用も継続してくれる。よい情報は積極的に推奨したり、拡散してくれたりする。
これからのさらなる原因究明と、再発防止策を徹底し、十分な情報公開を行うことで、迅速な事態の収束とイメージ回復を図ることを期待したい。