NHK朝ドラ「おむすび」 通夜シーンの真相は「永遠の謎」

【牧 元一の孤人焦点】2月28日放送のNHK連続テレビ小説「おむすび」第105回の永吉(松平健)の通夜シーンに謎の場面があった。

永吉は生前、多くの著名人との交流を家族らに語っていた。それらの発言を裏付けるように通夜シーンには歌手の山内惠介と元サッカー日本代表のラモス瑠偉が本人役で登場したが、謎が生じるのはその先。弔電とともに贈り物としてバットや「闘魂」との文字が入った赤いタオル、黒いシルクハットが届いた。

それぞれ王貞治さん、アントニオ猪木さん、引田天功さんに関係する品とみられたが、永吉は基本的に福岡県糸島市で農業を営んでいた一般人。たとえ本当に過去にどこかで交流があったのだとしても、そのような贈り物が通夜当日にそろって本人から届けられるとはなかなか考えづらい。物語の裏設定として真相はどうなのか?

制作統括の真鍋斎さんは「それは謎のままです。この作品はそういうケースが多いのですが、予定調和に陥らないよう、何から何まで説明することはしていません」と話す。

あの場面で永吉の息子・聖人(北村有起哉)が「誰かがふざけて送ってきただけだろ」と本人の贈り物であることに懐疑的な考えを示す一方で、長年連れ添ってきた妻・佳代(宮崎美子)は「まあそういうことにしておこう」と意味深長に話してほほえむ。

真鍋さんは「佳代さんがある種のいたずら心でやったのか、他の誰かがいたずらでやったのか。でも、もしかすると、本当に贈られたものかもしれない。あの場面の裏話としては、当初、贈り物の横に本人の名前入りの弔電が置かれた映像があったのですが、最終的にそれをカットして、本当か嘘か永遠に分からないままにしておくという見せ方にしました。粋に感じてもらえたら」と語る。

視聴者の判断に委ねる場面となったが、それが一種のファンタジーであるならば、その後の、かつて永吉によって助けられた小松原(大鶴義丹)の息子(大鶴の一人二役)が借金を聖人に返そうとする場面には視聴者の胸に届くリアリズムが必要だった。

真鍋さんは「演出した野田雄介は普段、テンポ良く撮るタイプですが、あの場面はリハーサルにかなり時間をかけていました」と明かし、もう一人の制作統括の宇佐川隆史さんは「あの場面で聖人は永吉の話し方のまねをしますが、私はそれを現場で聞いていて泣いてしまいました。親父の思いを自分が背負う覚悟を北村さんらしく表現してくださったと思います」と語る。

北村のリアリティーのある、確かな演技はこの作品の支えの一つになっている。

◆牧 元一(まき・もとかず) スポーツニッポン新聞社編集局文化社会部。テレビやラジオ、音楽、釣りなどを担当。

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