首都圏の大学に通う20歳の鈴木莉子さん(仮名)は、幼い頃から妹の凜さん(19歳、仮名)だけを特別扱いする父の態度が疑問だった。男子の兄弟には平手打ちもするのに、凜さんには怒らない。一方で、妹を束縛しているとも感じた。父は、目の届かないところで凜さんと莉子さんが話すことすら嫌がった。
やがて、妹から打ち明けられた。「パパから性暴力を受けている」。妹は12歳、中1だった。「そんなことあり得ない」。一方で、苦しむ妹を逃がしたいとも思った。しかし、もし父に知られたらどんな目に遭うか、家族の生活はどうなるのか…。苦悩の末、勇気を振り絞り警察に通報。シェルターに避難したのは、被害の告白から6年後。妹は18歳になっていた。「なぜもっと早く逃がせなかったのか」。莉子さんは今も自分を責め続ける。(共同通信=宮本寛)
妹のLINEも知らず 日常から感じた不審点
莉子さんら関係者の証言や父親の裁判記録などを総合すると、次のようになる。父は母と約10年前に結婚しており、莉子さん姉妹の実父ではない。姉妹の下にはさらに5人の弟妹がいる。暮らしは生活保護でまかなっており、家計はすべて父が管理。支出の決定権も握っていた。
子どもたちに対する父の暴力は「日常的だった」と莉子さんは言う。態度が気に入らないといっては腹を殴られた。ビンで頭を殴られ、出血したことも。母は「やめなよ」というだけで助けてはくれない。いつしか逆らうことを諦めていた。一方で父は、凜さんに対してだけは、夜更かししても怒らない。欲しいものも買い与えていた。
莉子さんと凜さんが2人でいると、すぐに父はどちらかを呼びつけ、用事を言いつけて引き離す。家族の中で凜さんの携帯電話番号もLINEも知らなかった。オンラインゲームの中で「フレンド登録」することさえ禁じられた。
凜さんが中1の時、同級生の男子の家に遊びに行った。すると父は激怒。学校に乗り込んだという。これがきっかけとなり、やがて凜さんは不登校になった。